シーちゃんと

時々はシーちゃんとこっそり泣こう

片鱗

苦しい息

なかなか止まない

 

いきんでいるので瞬間的に

チューブの栄養も止まってた

 

血管への負担も

血圧の変動も

今さらで

 

仕方のないこと

 

 

呼吸が落ちついてくれるのを

待つしかない

 

待つ

ただ

待つんだ

 

期待や希望を込めていない

ひたすら待つ

 

やるべきこと

痰の吸引、声がけ

頚椎のマッサージ、おでこのクーリング

頻回な体位変換

などで

ママはもう、くたくただもの…

 

だいじょぶだよ~☺️

ママ、ふーー!だよ~☺️って

笑っているんだ、わたし

いつものわたしだ

 

ママの目が

そう言ってるよ…

 

聴診器で痰の状態を聞き分ける指導どおり

確認して

夜は吸引で引いてみる

朝も聴き取れたら吸引

ということにした

 

部屋が乾燥している悪影響を避けるため

ママの使ってないタオルケットを

次々と洗濯して

この介護部屋のタオル干しに干す

すぐに乾くので、生乾きで

まめに濡れたものに交換して

 

それでも今夜は

痰は切りがない

 

仕方ないんだよ…

 

除圧もそうだけど

痰がつまらないように

しっかり横向きにしている

 

呼吸は

すぐに怪しくなる…

 

今夜は

ママ苦しいね…

 

わたし

待つしかない

待っているんだ

 

回復や治癒なんかじゃない

ただ呼吸が

この苦しい息が

 

少し

ほんの少しのあいだ

落ちついて

ママの安らかな寝息が

聴こえて来ないかと

 

けれど

苦しいままに、時折

大きな息をつく、ママの力強さ

それだけで

もう十分にも思える…

 

栄養のチューブの交換で

出血して入らなかったという左側

やっぱり腫れているね…

 

かなり引けたけど

寝る前にもう一度…

 

ごめんね…ママ

ありがとね…

 

 

ひとりだから

もしも

いないあいだ

眠っているあいだ

考えて

 

それでも

ひとり療養型の病院のベッドに

眠っているママを

想像したら

 

十分だ…

って

 

苦しい息でも

自力で呼吸している

ママ

十分だ…

って

 

無心で

待つ

 

ここからは

 

もっと

願いなんか

削ぎ落として行かなくちゃいけないんだ

もう

最初から

わかってここに連れて帰ったんだから

 

待つよ

 

ママが

眠りにつくの

 

だいじょぶ…

 

眠れるから…

いっしょにいるから

 

だいじょぶ…

 

 

ママの日記

部屋を整理していて

ばらばらめくってみた

一日の分で

文字や文章の調子が変わっている

あるところから

 

これは…

 

記憶力の衰えが

それに対する恐れが

そうさせたんだろうな…

単なる出来事の記録のような日記

 

忘れてしまわないうちに

何度かに分けて書いたんだ…

 

もう

泣くのはやめよう

 

片鱗に

 

気づいてた

わたし

だけど

 

何にもしてあげられなかった

ただ

話を聞いてあげるしか

 

ただ

待つしか

 

ごめんね

ママ

 

頑張ってくれて

ありがとう

 

もう楽になったんだ

苦しい息していても

 

みんな

忘れてしまっても

 

ママを助けてくれている人たちに

しっかり

目で

ありがとうしている…

 

すごいぞ、ママ

 

だいじょぶだよ…

 

怖いことはないね

いっしょにいるからね

 

雨の音

一日雨

春が来るんだよ

ママ

 

さくら色のカーディガンを探そう!

 

次の通院には

もう

桜はないけれど

 

大好きな

さくら色のカーディガン用意して

 

 

ゆっくり

ゆっくり

眠ってゆこう…

 

雨の音

 

ママの寝息と

 

シーちゃんと

わたしも

 

ちょっと眠るね

 

明日ね

明日だよ…

 

明日

また

 

 

ありがとう

 

おやすみなさい